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犬の上皮小体機能亢進症(上皮小体主細胞癌)

症例は11歳のミニチュアダックスフンドです。

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水は多くないが一度にたくさん飲む、足腰が弱ってるとのことで来院されました。血液検査にて、顕著な高カルシウム血症(>16.0㎎/dl)が認められました。腹部の超音波検査では小さな膀胱結石はあるものの、その他の明らかな異常所見は認められませんでした。

臨床学的診断:高カルシウム血症

高カルシウム血症の原因は大きく2つあります。ひとつは原発性のもので血中のカルシウム濃度を上昇させる上皮小体ホルモン(通称パラソルモン;PTH)が過剰に出過ぎている病態です。ふたつめはリンパ腫や肛門嚢腺癌などの悪性腫瘍からパラソルモンに類似した物質(PTH-rp)が多量に放出されて高カルシウム血症を引き起こしている病態です。わんちゃんの高カルシウム血症は後者の悪性腫瘍によるものが多いです。これを鑑別するために血液を外注検査に依頼しました。

イオン化カルシウム:2.62mmol/L(1.24-1.56)、PTH:28.3pg/mL(1.4-16.2)、PTH-rp:1.0未満(1.5以下)

 

続診断:原発性上皮小体機能亢進症

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外注検査の結果を受け、本症例の高カルシウム血症の原因は上皮小体の異常が疑われました。上皮小体は頚部の甲状腺という組織の中に埋まって位置していますので追加検査として頚部超音波検査を実施しました(画像:右/左の甲状腺領域)。

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左右に位置する甲状腺に通常は2個ずつ(計4個)の上皮小体が存在します。その中の左側尾側にある内上皮小体が6mm大の結節となっていることが確認できました。

 

上皮小体の結節が過剰にパラソルモンを放出しているため、ここを外科的に切除する必要があります。本症例も早期に外科的摘出を実施していきました。術前数日より生理食塩水を点滴し、周術期管理には十分注意を払っていきました。

頚部正中切開にてアプローチし、左側甲状腺内に位置する腫大した上皮小体を確認しました。術後のことを考慮すると残せる上皮小体は残したほうが良いため、切除範囲は上皮小体腫瘤を含む左側甲状腺2/3を切除しました。

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経過は順調で術後2日目には退院しました。ただ血中カルシウム濃度には注意が必要で、残っている上皮小体3つはしばらく機能していなかったため萎縮傾向にあり、正常に機能するまで時間がかかる事が多いです。

定期的に血清カルシウム濃度を測定し、術後3週間までは下がり過ぎてしまったため、カルシウム製剤や活性化ビタミンD3(カルシウムの吸収を促す)を内服する必要がありましたが、その後は安定化し手術から1ヶ月以降は薬もストップできました。

 

病理組織検査:上皮小体主細胞癌(脈管浸潤なし、マージンクリアー)

定期的なモニタリングは必要ですが、しっかり取りきれているため良好な予後が期待されます。

 

今回の症例は高カルシウム血症の原因として、比較的珍しい上皮小体そのものの異常でした。しっかり検査で的を絞り超音波検査で場所の特定ができたため、スムーズな治療につながったと思います。残した上皮小体もちゃんと機能してくれたので本当に良かったです。

 

飼い主様からは若い時のようにぐいぐい散歩で引っ張るようになったとのお言葉を頂けました!!

変わったことがあれば何でもご相談ください。よろしくお願い致します。