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犬の環軸椎不安定症

症例は11か月齢のヨークシャーテリアです。急にけいれんをしたとのことで来院されました。朝まで普通に生活していたが、昼に4-5分くらいの四肢硬直性発作があり少しふらついていたとのことでした。また、過去にも一度同様の症状があったり、首辺りを触った時に痛がるようなこともあったとのことでした

来院時(発作から約2時間後)は意識レベルや歩行状態は正常で、血液検査でも大きな異常所見は認められませんでした。その後数日は問題なく過ごせたが、1週間後辺りで再び様子がおかしくなり、眼がうつろな状態や時折キャンとなくような疼痛を示す状況がみられました。

仮診断:神経症状(頭蓋内疾患や脊髄・脊椎疾患疑い)

 

早急に診断が必要になりますので、二次施設にてMRI検査を実施してもらいました。

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環椎-軸椎レベルの脊髄が背側へ蛇行している所見が認められました。脳の異常は認められませんでした。

診断:環軸椎不安定症

環軸関節とは首の骨(頸椎)である環椎(=第一頸椎)と軸椎(=第二頸椎)からなる関節で、軸椎から前方へ伸びる歯突起やいくつかの靭帯により固定されています。これらの構造が先天的な奇形により、あるいは後天的な外傷(骨折や靭帯断裂)により、関節が不安定となり背側を走る脊髄を損傷することで症状を示します。環軸不安定症の症状として、ふらつきや四肢を突っ張るような発作様症状、頚部痛、呼吸困難などが認められます。注意点としては頚部の神経疾患は突然死を引き起こすリスクを秘めていることです。先天的なものの好発犬種はトイプードル、チワワ、ヨークシャーテリアなどの小型犬種になります。

 

一時的に頚部固定のコルセットや鎮痛剤による内科的保存治療を実施しましたが、数週間後に頚部痛の悪化と起立・歩行困難の症状が続いてしまうようになったため外科的整復を実施していきました。腹側アプローチによる環軸椎固定術です。

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頚部腹側を切皮し、周囲の組織を牽引・処理し環軸関節を露出します。軸椎が背側へ(術中は下)に落ち込んでいるのが確認できました。鉗子で軸椎体部を把持し、腹尾側方向へ(術中は後方へ持ち上げる感じ)で牽引し正常な位置に戻します。戻した状態で環椎と軸椎を2本のクロスピンにて整復固定します。さらに軸椎に2本のピンを設置し、関節を固める骨セメントの足場を形成します。前枝上腕部より海綿骨を採取し、整復した環軸関節の接着強度を高めます。その後、骨セメントを流し込み、固まる過程で発生する熱を生理食塩水で冷ましながら数分待って固定していきます。定法通り筋肉、皮下、皮膚を閉鎖し終了としました。頚部のサポーターは念のため約1ヶ月着けて生活してもらいました。

 

術後の経過は順調で、翌日より食欲は戻りはじめ、2日目にはふるえも止まり元気もありよく食べるようになり、3日目には4本足で立てるようになりました。退院時の術後6日目にはゆっくりではありますが歩行も出来るようになりました。2週間後の抜糸時にはスムーズに歩けるようになっていました。

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その後、半年経過しますが痛みも再発もなく元気いっぱい走り回って生活できています。

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環軸椎不安定症は比較的珍しい疾患です。発作様の症状が比較的多い頭蓋内疾患ではなく、今回のように頚部の神経疾患であることもあるのでMRIをしっかり撮ることがとても重要だと感じた症例でした。診断により治療方針も全然違うので、鑑別疾患をしっかり頭に入れながら診察をし、適確な検査を提供・提案できるよう心がけていきたいと思います。

愛犬・愛猫ちゃんに気になることがあれば何でもお気軽にご相談ください!!よろしくお願いいたします。