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猫の乳腺癌

症例は14歳の三毛猫ちゃんです。

定期的に実施していたペットドックの際に右側第2乳腺部に1-1.5㎝大の不整形の皮下腫瘤を認めました。細胞診検査にて、異型性軽~中等度の上皮系細胞集塊が多数採取されました。その他、臨床学的検査にて明らかな異常所見は認められませんでした

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臨床診断:乳腺癌疑い

猫の乳腺に発生する腫瘍は80-90%悪性であることが知られています。1歳未満での避妊手術により発生率が大きく下げられます。本症例は成猫になってからの避妊手術であったことが確認できました。また、猫の乳腺癌は浸潤性や転移率も高いため小さい腫瘤のうちに発生側乳腺の全摘出(第1-4乳腺)、およびリンパ節郭清が推奨されます。

 

本症例も飼い主様と相談し、早期に右側乳腺の全摘出と鼠経・腋窩・副腋窩リンパ節郭清を実施していきました。

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尾側乳腺と鼠経リンパ節は一緒に取れてきますので、乳腺組織を残さないようにしっかり切除していきます。副腋窩および腋窩リンパ節は外側胸動静脈に沿って位置を確認しながら頭側乳腺と共に切除していきました。

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(摘出組織)矢印部分に副腋窩・腋窩リンパ節が存在します。

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病理組織検査:脈管内浸潤を伴う乳腺癌〔T1N0M0〕

腫瘤は完全に切除されていますが、脈管内に遊離する腫瘍細胞が散見されます。同時に摘出された右腋窩・副腋窩・鼠経リンパ節に腫瘍性増殖を示す細胞は認められません。乳腺癌は再発や転移が多い悪性腫瘍なので、定期的な体表検査や検診が必要となります。

本症例は大きさ2㎝未満での切除、リンパ節転移および遠隔転移所見を認めなかったため比較的予後の良いステージⅠ(中央生存期間:3年)と判断されました。飼い主様と相談のうえ、術後補助治療はせず定期健診を続けていきました。

 

初回手術から約1年半後(16歳)の検診にて、左側第2乳腺部に1-2㎝大の不整形な腫瘤を認めました。細胞診検査にて、異型性中等度の上皮系細胞集塊が採取されました。

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臨床診断:乳腺癌

 

前回同様、左側乳腺全摘出と鼠経・腋窩・副腋窩リンパ節の郭清を実施していきました。今回は肉眼的に明らかに副腋窩リンパ節に腫大が認められました。

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〔摘出組織〕

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病理組織検査:リンパ節転移を伴う乳腺癌(T1N1M0)

腫瘤は完全切除されており、脈管内浸潤も認められません。同時に切除された左副腋窩リンパ節に微小な転移巣が確認されました。腋窩、および鼠経リンパ節には腫瘍細胞は認められません。

2回目の手術の際はリンパ節転移を伴っているためステージⅢ(生存中央期間:6~9か月)と診断されます。ただ、転移の順番としてはセンチネルリンパ節である副腋窩リンパ節に入って、その後腋窩リンパ節に進行していきますので、もしかしたらここまで食い止められる可能性はあります。

飼い主様と相談の上、術後補助的にCOX-2阻害剤である非ステロイド系の消炎剤(NSAIDs)のみ継続していくこととしました。年齢的に腎臓への負担も減らしたいので比較的副作用の少ないオンシオール(ロべナコキシブ)を選択していきました。猫の乳腺癌の発生や進行にCOXー2の発現が高い割合で関与しており、COX-2阻害剤であるNSAIDsが有効であることが分かっています。副作用も少なく、抗がん剤を使用しなくても再発・転移を抑え、生存期間を延長させる可能性があるため積極的に使用することがあります。

 

本症例はここから約2年(初めの手術から3年半)、現在18歳になりますが、再発転移なく元気に生活できています!!目指せ20歳!!

猫のお乳のしこりは悪性度が高く怖いものが多いですが、2㎝未満の小さいうちに適切な対処をすることで長生きできる可能性もあります。愛猫ちゃんに気になるできものを見つけたら早めにご相談ください。キャットリボン運動もぜひ参考にしてみて下さい!!よろしくお願いいたします。

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URL:http://catribbon.jp