症例は7歳避妊雌のダックスフンドです。10日前辺りからの食欲不振を主訴に来院されました。おやつは食べるが今まで食べていたフードは全然食べないとのことでした。また、1か月前くらいからよく水を飲んでいたということもわかりました。
血液検査にて、血液濃縮(PCV65%)、高カルシウム、低ナトリウム、低クロール、高カリウム血症が認められました。Na/K=21.9と低下していました。超音波検査でも副腎がしっかりと確認されず萎縮していることが予想されました。元々が6mm以下の小さい臓器なため、萎縮すると2~3mm大となり検出が難しくなります。
このような顕著な電解質異常を伴う疾患として、“副腎皮質機能低下症(アジソン病)”が第一に疑われます。確定診断を行うため、ACTH刺激試験を実施し、副腎皮質から分泌されるコルチゾールというホルモンを実際に測定していきます。
〔ACTH刺激試験〕刺激前:0.2μg/dL未満(正常:1.0-6.0)、刺激後:0.2μg/dL未満
コルチゾールが全然出ていません…。
診断:副腎皮質機能低下症(アジソン病)
犬のアジソン病は若齢~壮年の雌犬に多く、副腎皮質ホルモン(グルココルチコイドとミネラルコルチコイド)の不足により、元気・食欲の低下、嘔吐・下痢、多飲多尿、稀にショック(アジソンクリーゼ)を引き起こし、低血圧・低体温・低血糖に陥ることがあります。原因は特発性のものがほとんどで、適切な内科治療を継続することにより寿命を全うできます。
本症例はショック状態ではなかったため、不足しているグルコ/ミネラルコルチコイドを内服薬にて補充する治療を実施しました。治療開始約1週間で元気食欲は元通りに改善し、電解質やカルシウムの乱れも良化していきました。Na/K=30.0と正常化しました。
アジソン病は初期の症状が他の病気とよく似ており、見逃されやすい疾患の一つです。電解質異常を検出できれば問題ないですが、高カルシウムを検出した際にアジソン病を鑑別の一つに入れることが重要だと感じました。30~40%の症例で血中カルシウム値が高くなることが分かっています。また、非定型アジソン病というものも一定数あり、電解質の異常を伴わないこともあります。早期診断することがとても重要です!!
最後に生活面での注意点として、アジソン病の個体はストレスにとても弱いことが分かっています。いつもと違うことをする時、例えば旅行、ペットホテル、引っ越し、手術などのストレスがかかるであろうイベント時にはステロイドの内服薬を追加することが必要かもしれません。嘔吐や下痢、元気・食欲の低下はこの病気のサインです。放置せずに早めにご相談ください。
よろしくお願いいたします。