症例は2歳未去勢♂の柴犬です。半年前からの痒みや脱毛を主訴に来院されました。
身体検査にて、両側対称性の腋窩部、腹部、内股部の脱毛、色素沈着、苔癬化が認められました。スタンプ検査では多数のマラセチアが認められたため、数週間の抗真菌剤の治療、および外部寄生虫の除外治療(ネクスガード)を実施しました。改善は限定的で痒みは残る状態でした。
犬の治りが悪い痒みを伴う皮膚疾患で考慮しなければならないものは大きく2つです。食事のアレルギーと環境のアトピーです。これを鑑別していくために、ステロイドで痒みをやわらげつつ、除去食試験を行なっていきました。個体が始めて食べる蛋白のみ(新規蛋白)を使用したドライフードを使い約2ヶ月間厳密に食事管理をしてもらいました。ステロイド使用時は痒みのコントロールは良かったですが、フードのみになると痒みがぶり返してしまいました。皮膚の状態もなかなか好転しません。そのため食事の関与はないと判断しました。
診断:アトピー性皮膚炎
犬のアトピー性皮膚炎は環境アレルゲン(ダニ・カビ・花粉など)に対するアレルギーで、その多くが2~3歳に発症します。症状が出る部位は腋窩、大腿部、内股部、四肢の屈曲部で、痒みを伴う皮膚炎がみられます。ただし、これらの部位は食物アレルギーでも同じように症状が出る場合があるため、見分けることが難しい事もあります。また、アトピーでは環境中のアレルゲンに対して症状を起すため、ダニやカビ、花粉などのアレルゲンへの暴露が増える季節に症状の悪化がみられることもあります。
治療は、①アレルゲン回避、②皮膚ケア、③炎症(痒み)の治療、④悪化因子(二次感染)のコントロールです。環境アレルゲンですので全てを排除するのは難しいですが、可能な限りアレルゲンを減らす目的でエアコンの掃除や寝床の掃除、空気清浄機の設置などを検討する必要があります。皮膚ケアには、皮膚に良い成分の入ったフードや保湿ケアのあるシャンプーなどが挙げられます。炎症や痒みに対する治療には、ステロイドやシクロスポリン、オクラシチニブやロキベトマブといった薬剤を使用します。悪化因子として細菌やマラセチアの感染が多いため抗生剤や抗真菌剤を併用することもあります。
本症例は慢性経過もありシクロスポリンを選択しました。併せてフードによる皮膚ケアや抗真菌剤による感染コントロールも行っています。約2か月経つ頃には痒みはほぼ落ち着き、皮膚には発毛も見られよい状態まで改善していました。
アトピー性皮膚炎は完治する疾患ではなく、4つの治療をうまく組み合わせ痒みをコントロールし、生涯付き合っていく疾患になります。本症例もかゆみや皮膚の状態を見ながら内服薬の投与間隔を調整し、継続治療しています。
愛犬・愛猫ちゃんに痒がる様子がみられたらいつでもご相談ください。よろしくお願いいたします。