症例は15歳の柴犬です。左側の口唇が腫れているとのことで来院されました。
身体検査にて、左上口唇部内側粘膜より発生する大きさ2-3㎝の赤い腫瘤と、左下顎リンパ節の腫大が認められました。その他、血液検査やレントゲン検査、超音波検査にて、明らかな異常所見・転移所見は認められませんでした。
針細胞診検査にて、リンパ球や組織球様の独立円形細胞が多数採取されました。
臨床診断:口腔内悪性腫瘍(疑い)
鑑別疾患として、リンパ腫や乏色素性悪性黒色腫が挙げられました。確定診断および治療を目的に外科的切除を実施していきました。
初めに腫大している下顎リンパ節を摘出しました。その後口唇部の腫瘤を確認し切除範囲を決定していきます。(内側~中間~外側)
腫瘤部より1㎝程の外科マージンを確保しながら、電気メスを用いて切除していきました。筋肉や神経、太めの血管などが分布しており、丁寧に処理を行っていきました。
縫合は多少左側に牽引される形にはなったが粘膜・皮下・皮膚をベンツマーク状に閉鎖した。
病理組織診断:上皮(表皮)向性リンパ腫
この腫瘍は粘膜部と有毛部皮膚の両方に発生することが知られています。高齢犬での発生が多く、初期には紅斑や痂疲状の病変を形成し長い経過を取ることもありますが、進行すると浸潤性腫瘤が認められるようになり予後は悪くなります。本症例は腫瘤の形成やリンパ節への転移所見も認められ、進行した腫瘍期にあると考えられました。局所再発や遠隔転移が出てこないか要注意しての経過観察が必要となります。
術後2か月、多少左側に鼻は曲がりましたが食事や水もしっかり取れており呼吸の異常もありませんでした。
術後半年、ケイレン発作などの神経症状(リンパ腫の脳転移が疑われる)で永眠されましたが、手術により局所的な再発は抑えられQOLが維持できたと考えられました。
ヒトもイヌもネコもがん治療の基本は早期発見・早期治療です。口腔内は意識して確認しないと発見が遅れてしまうリスクがあります。愛犬・愛猫ちゃんの口の中を定期的に確認していただけると幸いです。小さいうちに見つけることが根治治療につながることがあります!!よろしくお願いいたします。