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症例紹介 犬の多飲多尿(高カルシウム血症)

症例は14歳のチワワです。

1ヶ月前より多飲多尿が出はじめたとのことで来院されました。各種検査にて、顕著な高カルシウム血症が見つかりました。また以前より認められている乳腺の多発性腫瘤と、卵巣の腫大も認められました。本症例の多飲多尿は高カルシウム血症が原因ですが、治療するためには高カルシウム血症の原因追及が必要です。

高カルシウム血症を起こす病態は大きく2つです。ひとつは血中のカルシウム濃度を上昇させる上皮小体ホルモン(通称パラソルモン:PTH)が過剰に出すぎている状態です。ふたつめは悪性の腫瘍からパラソルモンに類似した物質(PTH-rp)が際限なく放出され高カルシウム血症を起こしている状態です。わんちゃんの高カルシウム血症は圧倒的に後者の悪性腫瘍によるものが多いです。本症例もPTHの値は低めで、PTH-rpは顕著に高い数値を示しました。

よって”腫瘍性高カルシウム血症”と診断されます。腫瘍の場所は、腫瘤が多発する乳腺と腫大した卵巣が考えられました。治療の根本解決は手術による切除です。

本症例は高齢であり、さらに気管や喉頭の異常から呼吸の問題もあり、麻酔のリスクは高いものでした。最も危険なのは術後の呼吸管理です。ここに最善の注意を払い手術を実施していきます。卵巣子宮の全摘出と左右の乳腺切除(右:3-5乳腺、左:2-5乳腺)です。

DSCN4483(術前)DSCN4485(乳腺)DSCN4489(卵巣子宮)

DSCN4487(乳腺内には数えきれないほどの細かい腫瘤が多発していました。)

麻酔の覚め際はかなり呼吸状態が悪くなりましたが、一度肺を大きく膨らませ対処することで回復していきました。術後はICU内で酸素を十分供給し、一晩注意してみていきました。術後1日目からかなりアグレッシブにケージの外に出ようとしていたり、人が見えると吠えて興奮したりと、入院のストレスは大きいものと思われました。そこで注意を払いながら酸素濃度を徐々に下げていき、早期にICUからの離脱を試みていきました。呼吸状態はとても安定していたため、その日の夕方には自宅で安静にして経過をみてもらうこととしました。

 

退院後は食欲もあり落ち着いていたようです。10日後の抜糸時には、多飲多尿も落ち着き、元気な姿をみせてくれました。傷口もとてもキレイに治癒していました。病理検査の結果は、乳腺の一か所で乳腺がんが見つかりましたが比較的小さいうちに完全切除されているので良好な予後を期待するとの結果でした。

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その後も元気食欲問題なく、経過は良好です(カルシウムの値は正常まで落ち着き、多飲多尿は全くなくなりました)。先日もトリミングにも来てくれました!

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今回の症例は、比較的よくある多飲多尿という症状の中でも珍しい高カルシウム血症が原因でした。多飲多尿は糖尿病やクッシング症候群などいろんな原因がありますが、高カルシウム血症という項目もしっかり鑑別診断に加えておくことが大切です。そして、手術では考えられうる腫瘤を根こそぎとることができたので完治できたと思います。呼吸の異常は手術するうえでかなり不安要素でしたが、本人の回復力も助けになりスムーズに治療ができました。

すべての問題をクリアーにできたことは、ほんとによかったと思います。これからも元気に健康に過ごしていきましょう!!