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犬の会陰ヘルニア、敗血症

症例は9歳の♂のボーダーコリーです。約2年前から会陰ヘルニアがあり便の出が悪く、内科的に維持されていた症例です。

当院来院時には尿が出ない状態となり、食欲元気もなくグッタリしている状態でした。身体検査では意識が朦朧としており、後肢に力が入らず立てない状態で体温も40.3℃まで上昇していました。血液検査では白血球2000/㎕や血小板2.3万/㎕などの著しい低下があり、命を脅かす敗血症状態となっていました。レントゲン、超音波検査検査にて、肛門直下に大量の便塊が認められ、膀胱はパンパンに腫大し尿道閉塞状態となっていました。腹腔内と肛門周囲に一部液体が漏れており、貯留液の検査にて強い炎症所見と細菌感染が認められました。尿中にも細菌感染があり、細菌性膀胱炎を重度に起こしている状態でした。

 

〔診断〕

敗血症性ショック

会陰ヘルニア

腸管内容物の漏出による腹膜炎

尿道閉塞、細菌性膀胱炎

 

会陰ヘルニアが放置されてしまっていたことが根本的な原因であり、手術による整復が必要ですが、危険な状態に陥っていますのでまずはしっかり内科治療により状態の安定化を図りました。敗血症性ショックは重度の細菌感染により引き起こされます。細菌感染コントロールのため抗生物質治療、尿道閉塞治療のため尿道カテーテル留置、脱水・血圧・一般状態の改善のための静脈点滴治療を実施していきました。

約1週間の内科治療により血液の状態や尿中および腹腔内の感染コントロール、食欲や元気などはだいぶ改善できましたが、やはり会陰ヘルニアにより排尿や排便は自力では難しい状態が続いていました。写真では肛門周囲が著しく盛り上がっていることが分かります。

一般状態が安定化したので会陰ヘルニアの外科的整復を実施しました(第7病日)。

 

(手術前)

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左右ともヘルニア孔はとても広く、周囲の筋肉は薄く脆弱化していました。飛び出した脂肪などの組織は炎症もひどく周囲と強固に癒着していました。丁寧に剥離し腹腔内へ押し戻します。空いたスペースはとても広いためポリプロピレンメッシュを使用し、筋肉や靱帯、骨膜と縫着していきます。

(ヘルニア整復前)

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(ヘルニア整復後)

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(手術後)

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術後の状態は良く手術から3日後(第10病日)には退院できました。排便は少量ずつだが自力で出来るようになり、尿も出るようになりました。

抜糸時(第22病日)には1日2回の良便が出来ている状態で、元気食欲も良好でした。肛門周りの炎症や腫れもひき傷口もきれいな状態でした。

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しかし第55病日辺りからうんちをしようと踏ん張ってもなかなか出ない状態となりました。

各種検査を実施したところ、肛門腹側部に大量の便塊貯留が認められました。前回手術をした側面の固定はしっかりしており、直腸の左右への変位はありませんでしたが、腹側部に直腸のたるみが生じておりそこに便塊が蓄積している状態でした。

〔診断〕

-腹側部の会陰ヘルニア

 

再度手術を実施しました(第69病日)。今回はたるんでいる直腸をお腹側から牽引し腹壁に固定する直腸固定と、肛門腹側部の余ったスペースをメッシュでうめていく方法をとりました。

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開腹して直腸を約7cmほど頭側へ牽引し、左の腹壁に縫合固定していきます。

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次に肛門腹側部にアプローチし、皮下に大きく開いたスペースをポリプロピレンメッシュにて埋めていきます。肛門括約筋や前回左右に固定したコーン状メッシュ、そして坐骨部とメッシュをそれぞれ縫合固定していきました。

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皮下組織および皮膚を縫合し終了としました。

 

術後翌日には退院でき、2週間後の抜糸時には元気な姿を見せてくれました(第84病日)。排便もスムーズで終わった後のキレも良いとのお言葉を頂きました。

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大型犬の会陰ヘルニアの症例でした。初診時は重度の細菌感染により生命の危機に陥っていましたが、状態を見極めて内治療により回復を待ってから外科にシフトして行けたことが何よりも良かったことでした。会陰ヘルニアは再発しやすい疾患です。左右に緩みがなくても筋肉が正常に働いておらずうまく便が排出できないこともあります。色んな方法により周囲を補強したり、場合によってはたるんだ腸管の短縮も必要になることがあります。

変わったことがあればいつでもご相談ください。何卒よろしくお願いいたします。