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犬の細菌性肛門嚢炎、肛門嚢切除

症例は3歳のMix犬です。お尻を気にする様子があり、時折緑色の液体が勝手に出ているとのことで来院されました。身体検査により肛門嚢部に粘性の高い緑色の膿が蓄積していました。顕微鏡による検査にて、大量の桿菌および好中球が検出されました。

診断:細菌性肛門嚢炎

肛門嚢は便が排出される肛門のすぐ脇に位置しており、細菌感染を引き起こしやすい組織です。肛門嚢炎の症状として、肛門周囲皮膚の紅斑や疼痛、発熱などを伴うこともあり、お尻を床にこすりつけたり、舐めたりすることがあります。通常はしっかり膿をしっかり絞り出し、洗浄したり感受性抗生剤を投与することで内科的に管理されます。

本症例は、細菌の培養・薬剤感受性検査を実施し、有効と判定された抗生剤を3種類程順に使用してみましたが、完全には治りきらず膿の排出が持続的に続きました。お尻を舐めたり噛んだりするサインも続いていたため、難治性と判断し肛門嚢の外科的摘出を実施していきました。

 

両側の肛門嚢の切除を実施していきました。肛門嚢の内部にガーゼを詰めたり、綿棒を導管から挿入したりすることで肛門嚢の位置をしっかり把握できるようにします。周囲には肛門を収縮させる筋肉が分布していますので、周囲組織を鈍性に剥離することでダメージを最小限に抑えるように意識して切除していきます。

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肛門近くは便に汚染されやすい部位であるため、傷の閉鎖は糸が外に出ないよう皮膚の下に埋め込むような形で行いました。

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摘出した組織は念のため病理組織へ提出しました。術後の回復は早く次の日には退院できました。

 

病理診断:慢性肛門嚢炎

肛門嚢上皮は広範囲に壊死が認められ、慢性経過をたどった炎症性病変との診断でした。腫瘍性疾患や感染病原体は認められないため術後の経過は良好と考えられます。

本症例も経過は良く、1か月経つ頃には全くお尻を気にすることはなくなりました。排便に関しても問題なく行えています。手術から約3年経ちますが、肛門嚢自体を摘出していますので再発することなく元気に生活できています。

 

肛門嚢(肛門腺)は肉食獣が持っている組織で、その分泌液により野生動物の場合は自分の臭いを擦りつけて縄張りを腫脹するという大事な目的があります。一方、犬や猫などの愛玩動物では肛門嚢の臭いによりお互いの個体識別の確認に使用する目的があるようです。お尻の臭いを嗅ぎ合って挨拶しているのはそういう意味合いがあるようです。もちろん相手を確認する方法はほかにもたくさんある訳で必ずしもこの肛門嚢が生活に必要不可欠というものではありません。内科的に管理できない再発する難治性肛門嚢炎は、かゆみや痛みなどのストレスから解放するために外科的に摘出することも考慮されます。

 

愛犬・愛猫ちゃんに変わったことがあればお気軽にご相談ください。よろしくお願いいたします!!